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哀歌

哀歌

 

チェンバロの哀しげな旋律に誘はれるやうに

むくりとその頭を擡げた哀しみは

胸奥に折り畳まれてある心襞に纏はり付きつつ、

首のみをぐっと伸ばして《吾》に襲ひ掛かるのだ。

 

――何を見てゐる?

 

さう言った哀しみは、哀しさうに《吾》を喰らひ、

大口からどろりとした鮮血を流しながら、

更に《吾》の腸(はらわた)を貪り食ふのだ。

 

それでも死ねぬ《吾》は、

鮮血を口から流しながら《吾》を喰らふ哀しみの悲哀を

ぐっと奥歯を噛み締めながら受容する。

 

――なぜ消えぬのだ、お前は?

――ふん、消えてたまるか!

《吾》は《吾》為る事を未だ十分には味はってゐないのだぜ。

そんな未練たらたらな《吾》が哀しみに喰はれたぐらゐで消えてたまるか!

 

薄ぼんやりと明け行く空に

茜色に染まった雲が

菩薩の形へと変容しながら

ゆったりと空を移らろのだ。

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