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曖昧なるものの影は

曖昧なるものの影は

 

うっすらとその姿を仄めかしてはゐるが、

あるともないとも判断が下せぬそいつは、

然し乍ら、多分、存在するのであらうが、

曇天の雲を切れ味鋭い日本刀で切り裂くやうにして、

そいつは、雲間に青空を齎すのである。

その抜刀の凄みは正しく達人の域に達してゐて、

そいつは、多分、空を自在に飛び回り、

さうしておれの五蘊場の穴蔵に棲まふのだ。

 

そいつは、おれの五蘊場の穴蔵の暗闇に包まれた中で、

ぎろりと鋭く光る眼差しを外部に向けて、

無精髭を生やしたおれの草臥れた顔に重なるやうに、

そいつは、不敵な笑ひを浮かべてはおれを隠れ蓑にして

否、おれを既に喰らってしまって

おれの乗っ取りにまんまと成功してゐるに違ひないのだ。

 

塀に囲繞されてゐるかのやうな

己の存在に身を焦がしてゐるおれは、

その塀を素手でぶっ叩いて

穴を開けようと、それが無益な行為と重重知りながらもさうせずにはをれぬおれは

然し乍ら、蜿蜒とその行為を繰り返すしか能がないおれは

嗚呼と、空を見上げては、

そいつの亡霊を目で追ひかけるやうにして

そいつがぶった切ったであらう雲の切れ間に見える空色に

そいつの仄かな仄かな仄かな影を見据ゑては

それが錯覚であると言ふ事を錯覚であると厳然と認識してゐながらも

錐揉み状にその錯覚の中に身を投じては、

おれは身悶えしながら、次次と雲を惨殺しながら、

蒼い空色を求めては

おれの五蘊場に棲まふであらうそいつを引き摺り出さうと

おれはあれやこれやの手練手管を労しては

結局は、無精髭面のおれの顔を鏡面に見出すばかりなのだ。

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