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虚妄の迷宮

虚妄の迷宮

あれがこれになり、
これがあれに瞬時に変はる奇っ怪な世界の中、
ぐるりと巡る曲線のやうな直線に極北を見、
様様な不可視な力が作用する其処は、
等速平行運動に加速度があるやうな
物理学が成り立たぬその世界の中で、
俺は奇妙にひん曲がった俺の顔を意識する。

何もかもが歪んでゐながらも何処も歪んでゐない不合理に、
初めは面食らった俺ではあったが、
常在地獄とはこのやうな様相を呈してゐるのかもしれぬと
にんまりとそのひん曲がった顔で嗤ひながら
独り俺の嗤ひ声のみがその奇っ怪な世界で響き渡る。

それには既に聞き飽きてゐた俺は、
シベリウスの交響曲のやうな壮麗な音楽が
世界の背後で響き渡ってゐるのを知ったのだ。

その壮麗な音楽は、
それ以前も絶えず此の世界で響き渡ってゐたものとみられ、
それまで全く気付かなかった俺の聴覚は多分、既に難聴なのだと思ふ。

五感が既に役立たぬその世界の中、
それを世界と認識する俺の奇妙な認識力は、
果たして正気を装ふてゐるのか
それとも元元馬鹿者でしかないのか、
そんな事は土台どうでもいいのであったが、
しかし、そんな些末な事に神経を磨り減らし
さうやってでしか世界認識が出来ぬ俺は
最後は居直って俺は俺だと高を括るのだ。

さて、俺が俺とは一体全体どう言ふ事なのであらうか。
この愚問に躓き最早一歩たりとも動けなくなやってゐる俺の影を見れば、
それは蝸牛にそっくりな目玉がぐうんと飛び出た異形をしてゐて、
節足でゆっくりとゆっくりと動く事しか出来ぬそれは、
愚鈍な俺には全く相応しく、
さうして一人合点しながら、俺独自の世界を構築してゆくのかもしれぬ。

では、その独自な世界とは一体どんな世界かと言ふと
何の事はない、物理学が提示する世界観から一歩も踏み出せぬ世界であり、
しかしながら、俺が今いる奇っ怪な世界では物理法則は全て成り立たないのだ。
この事を理解するのにまだ時間が必要な俺にとって
この顔がひん曲がった世界の中で
曲線が直線と言ふ余りに直截なその世界の有様に
それを丸ごと受け止める許容力は俺にはないのだ。

哀しい哉、この奇っ怪な世界を受容するには
俺が余りにも狭隘過ぎたのだ。
それではそんな世界に別れを告げて
さっさと今生の世界に逃げ帰ってくればいいのであるが、
それが恥辱でしかないと思ってゐる俺は
その恥辱を黙って呑み込み、
身悶えしながら今生の世界にゐる馬鹿らしさに
最早堪へ得る力すら残ってゐないのだ。

ざまあない。
虚妄の迷宮に潜り込んでしまった俺は、
その虚妄性を証明しなければならぬと言ふ使命を感じつつも、
そんな馬鹿げた事をする暇があったならば、
この虚妄の中で溺れるのが最も道理が合ってゐるのだ。

虚妄の迷宮とはドストエフスキイ曰くところの「水晶宮」なのかもしれぬが、
ドストエフスキイの時代は水晶宮と言ふ、其処には何となく美が存在し、
また、神秘的な響きを持ってゐるのであるが、
虚妄の迷宮には何の深みもなく、
唯単に迷宮と言ふものに託した胡散臭さしか残ってゐないのだ。

この顔が奇妙にひん曲がった世界を虚妄の迷宮と呼んだところで、
その浅薄さは隠しやうがないのだ。

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