薄明の中で

思索に耽る苦行の軌跡

薄明の中で

2016年12月4日 思索、詩、アフォリズム 0

薄明の中で

 

夜と朝の間(あはひ)の薄明の中、

死んでしまったレナード・コーエンの歌を聴きながら、

世迷ひ言のやうに腹の底から奇声を上げ、

それでお前は満足かね、といふ問ひに薄笑ひを浮かべつつ、

おれは、この軟体動物にも為れぬおれを断罪するのだ。

 

何をしておれはおれを断罪するのかと言へば、

それは、おれが既に存在してゐる罪悪感からに過ぎぬのであるが、

しかし、この罪悪感は底無しで、

おれをその穴凹に突き落とすのだ。

 

低音が心地よく響くレナード・コーエンの歌声が導くやうに

おれは底へ底へと引き摺られながら、

おれが大好きな蟻地獄の巣に陥ったかのやうに

この穴凹の主に喰はれるおれを想像しては、

底知れぬ歓びに打ち震へる。

おれは、おれの存在の抹消を或ひは冀(こひねが)ってゐるのかも知れぬが、

だからと言って死に急いでゐる訳でもなく、

何時かは必ず訪れるその死を楽しみに待ちながら、

おれは、矛盾してゐるとは言へ、

生を楽しんでゐるのだ。

 

へっ、この穴凹を嘗てはNihilismと言ったが、

おれは今以てこのNihilismの穴凹から這ひ出る術を知らぬのだ。

頭のいい奴は既にNihilismを超克し、

新=人として此の世に屹立してゐるのであらうが、

おれは白痴故にこの穴凹から出られずに、

羽根をもぎ取られた蜻蛉の如く

此処から飛び立つことは出来ぬのだ。

 

ゆらりと薄絹の蔽ひが揺れた。

美は薄雲とともに蒼穹に消え、

醜悪のみが此の世に残されたのか。

 

きいっ、といふ鳥の鳴き声。

薄明の中、空には真白き小鷺の群れが飛んでゐる。

 

揺らめく薄絹の向かうに

死者の顔が浮かんでゐる。

 

女は真っ裸でおれが抱きつくのを待ってゐるが、

穴凹の中、

色恋に溺れる度胸はない。

 

直に日の出を迎へるこの薄明の中、

おれは白痴なおれを嗤ふに違ひなく、

おれの吐く息で薄絹は揺らめき、

おれが世界から断絶してゐる事を思ひ知らせるのだ。

 

ならばと酒に溺れて羽化登仙し、

一時このNihilismの穴凹から抜け出した夢を見る。

 

軽さは存在するには絶対必要条件。

重力に捕まっちまったおれは

天を蔽ふ薄絹を掴まうと

手を伸ばすが、

その無様なことと言ったら

醜悪以外の何ものでも無い筈だ。

 

薄絹が流れはためく。

 

そして、天道様は微睡みを齎すべく今日も昇る

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