ものの有様 四

 

そのやうに時時刻刻と最新の情報で上書きされる仮想現実と現実世界の相関関係は、断然、仮想現実が現実世界に対して優位を保持してゐて、世界は既に仮想現実に一見すると従属してゐるやうに見えるのである。厖大な情報を時時刻刻と丸呑みする仮想現実は、個人が世界を情報へと翻訳したものを丸呑みするばかりでなく、不特定多数が世界を情報として翻訳したその厖大な情報を丸呑みし、共有することで利便性は飛躍的に上がるのは当然のことであり、情報を共有することで、弧-存在たる吾は、これまでそれら己の知り得ることはある程度限られてゐて、これまでは例へば印刷物などで情報を得、そのやうな時代では情報を持ち歩くことが出来ない故に、現存在の記憶力がものを言ふ時代であったのであるが、携帯端末を手にした現存在は、極論を言へば、記憶力が途轍もなく劣ってゐても全て仮想現実にAccess出来れば情報は五万と得られ、その厖大な情報を取捨選択して己の欲する情報のみに辿り着ければ、それでよく、また、試されるのはその情報の真贋を見極める能力なのである。尤も、仮想現実よりも現実世界の方が翻訳出来ずにある情報は厖大にあり、現実世界に比べれば仮想現実は現存在が世界で必要な情報に翻訳できたものを切り取ったものに過ぎぬのであるが、それ故に仮想現実が咀嚼せずに丸呑みする情報は全て正しいと言ふことはなく、むしろ現存在を欺く情報に満ち満ちてゐると言っても過言ではないのである。

それでは情報の真贋を見極める能力はどのやうにして身に付ければ良いのか、これが大問題なのである。仮想現実では、現存在は服を着るやうに情報を纏ひ、その中には悪意に満ちた現存在は必ずゐる筈で、情報は凶器になり、厖大な情報が、情報に対して無防備な弧-存在たる現存在は、厖大な情報の洪に丸呑みにされて、情報に溺れることになるのである。さうならないためには、現存在は、情報に対して仮想ではなく、現実において大いなる実害がある武器と同様のものとして扱はなければならないのが実情で、情報を丸呑みする仮想現実は、これは言わずもがなであるが、現実世界と必ずずれが生じてゐて、善意も悪意も丸ごと丸呑みするために、時時刻刻と更新、上書きされる仮想現実には、一歩踏み間違へればそれは凶器となる機雷の如くに仮想現実に彼方此方に埋め込まれてあるのである。

かうなると現存在は、現実世界との間に仮想現実に距離を開けて、決して上書きする愚は行はなくなり、厖大な情報を腑分け出来る術を見出す道を探り、その結果がAI、つまり、人工知能の登場を渇仰するのである。つまり、仮想現実の厖大な情報を個人の能力では取捨選択する能力は持ち得ず、人工知能の助けを借りて現存在に必要な情報を予め人工知能に取捨選択して貰はないと、既に仮想現実の情報量は呆然とするほどに厖大なのである。