兆し

 

朝日が昇る中、

西の空を見ると白色化した月が茫洋と沈み行く。

唯、それだけだけのことなのに

とてももの悲しいのだ。

冷え込んだ真冬の朝のありふれた日常なのに、

ぼんやりともの悲しいのだ。

これは何かの兆しなのかと思はなくもないが、

どうせ碌なものぢゃない。

 

日常は残酷だ。

一つ踏み外すと、即、死の淵へと日常は追ひ込む。

何を大仰なと思ってゐる輩は知らぬが仏で、幸せものだ。

日常からどうしようもなく食み出たものは、

非日常へと追ひやられることなく

即、死の淵へと驀地(まっしぐら)なのだ。

 

やれやれ、危ない兆候へ一歩踏み出す毎に

おれはへらへら嗤って

死に神に睨まれるへまをやらかす。

 

朝日が昇れば、

月が白色化して沈み行くのはとてももの悲しいものなのだ。

 

へっ、そんな顔するなよ。

愛する女性がおれの顔を見て哀しい顔をする。

おれの魂は朝、白色化せざるを得ぬ月に寄り添ふやうに憧(あくが)れ出て

おれは月と同様に茫洋と彷徨ふ。

さて、おれは何処を彷徨ってゐるのか全く解らず、

白い息をハアハアと吐きながら

真冬の零下の中にもかかわらず汗びっしょりに

出口を求めて彷徨ひ続けるのだ。

 

おれは何とか生にしがみつくと言ふ兆しを内外に求めながら、

何時も生に裏切られると言ふ憂き目を見ると、

返って少しは気が晴れるから不思議だ。

 

朝日が昇る中、

西の空を見ると白色化した月が茫洋と沈み行く。

唯、それだけだけのことなのに

とてももの悲しいのだ。

冷え込んだ真冬の朝のありふれた日常なのに、

ぼんやりともの悲しいのだ。

これは何かの兆しなのかと思はなくもないが、

どうせ碌なものぢゃない。