罠を仕掛けてみたが

 

ぐにゃりとひん曲がった壁に

そいつはにたりと嗤っては

さもおれに対して、

――気狂ひ!

と言ひたげな顔をして現はれては

常日頃おれに対して感じてゐる鬱憤を晴らしたいのだらう。

おれは執拗にそいつを追ひかけ回し、

彼方此方に罠を仕掛けて

そいつを掴まへよううと

策を弄するのであるが、

そいつにはそんなことは全てお見通しで、

おれが仕掛けた罠に引っ掛かる筈もなく、

俺は何時もへまをやらかしては

地団駄を踏んで頭を掻き毟る。

だからといって、その狂った鬼ごっこを已める筈もなく、

おれは今日も相変はらず腹を空かした野犬の如くにそいつを追って追ひかけ回る。

それでもそいつは既の所で

おれの手からまんまと遁れ果せ、

何時もにたりと嗤ってみせる。

とはいへ、おれはそいつが一体全体何ものなのか全く知る由もなく、

何だか無限を相手にしてゐるやうな

はたまた、女性器に夢中にむしゃぶりついてゐるやうなその感触は、

おれの存在の根源に関はることなのかも知れぬと薄ぼんやりと思ひながらも

この女性器に対して抱くのにも似た恋ひ焦がれて已まぬ感触は、

女性器から溢れる愛液を舐めては

此の世の悦楽を境を噛み締める時間に似てゐなくもなく、

然し乍ら、その自己満足たるや射精をしては果てるやうに

目も当てられぬ代物には違ひないのであるが、

ところが、これはどうしようもなく、

例へば、裸の女を前にして、おれは迷はずにその女を抱くやうに、

おれと言ふ存在の尊厳に関はることであり、

おれの無限への憧れは女性器に対する憧れにも似てゐるのかもしれぬ。

それは夢中にむしゃぶりついても一生解らぬ領域であり、

そこから白濁した愛液が溢れ出れば尚更興奮するおれは、

それを思いっ切り啜っては

此の世の悦楽を噛み締め、

さうすることで、おれには未だ掴め得ぬ無限といふものに対する憧れを

満足させてゐるに違ひないのだ。

罠を仕掛けてみたが、

そいつは今のところ、おれが掴まへるには余りにも知らないことだらけであり、

とはいへ、無性に恋ひ焦がれて仕方がない「未知」、或ひは「謎」なのだ。