頭がくらくらするほどの熱風に塗れながら、
おれは灼熱の中、歩を進める。
何故故にこんな日に歩かなければならないのか、
理由はなく、
唯、おれは、熱風に塗れることで現はれるへとへとに草臥れたおれを罵倒したくて、
歩いてゐる。
溢れるやうに噴き出る汗を拭ひながら、
直ぐ熱風に困憊するおれは、
それでも目玉だけをぎらぎらと輝かしながら、灼熱の中を只管歩くのだ。


意識が遠くなりつつも、おれの中に意識を留めるべく、水を飲みながら、
脊髄が痺れる嫌な感じに苛まれ、
そのときに不図現はれる真黒き「杳体」は、
おれを覆ひ尽くし、
おれの本性が現はれることを
目論むおれがゐるのである。


しかし、それはおれを欺瞞するための方便であり、
「杳体」なんぞ、ちっとも信じてゐないおれの
その場凌ぎの窮余の策であって、
脊髄が痺れるその嫌な感覚に圧し潰れて倒れさうなおれは、
案山子のやうに、唯、佇立するのだ。
その中で、陽炎が上るおれの影を凝視しては、
唯、
――立ってゐる。
と、思ふことで安寧するおれは、
その姿に、また、欺瞞をも感じる馬鹿なおれがゐる。
しかし、何もかも欺瞞の烙印を押して溜飲を下ろしてゐるおれの
そのCatharsis(カタルシス)は、狡賢い詐欺師が詐欺を行ふことと何ら変はりがないのだ。


熱風が吹き付ける灼熱の中を只管歩を進めるおれは、
噴き出る汗をものともせずに、
痺れ行く体を心地よ行く感じながら、
脊髄が痺れる嫌な感じを払拭するのだ。
さうしておれは、眩む視野に穴があいたやうに黒点が現はれる其処に
ぐっと意識を集中させては、
「杳体」の何たるかを見果せるまでは、
歩くことをやめぬのだ。


――へっ、「杳体」なんぞ、信じてゐるのかい? そいつは目出度い。ここにもまた、馬鹿が一人ゐたぜ。