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 (悪疫を避けるために欧州へ一時帰国した彼女へ送る)


ヰリアム・ブレイクの詩ではないが、
悪疫が猛威を揮ふ不安と恐怖の阿鼻叫喚の中、
人間を丸呑みし、瘴気を吐きながら化け物の大蛇が大地を這ひ行く。
大蛇は時折、ちょろちょろと深紅の舌を出しては
死臭を嗅いでゐる。
にょろりにょろりと大地を這ひ行く大蛇。
その後を苦悶の顔を浮かべた霊たちがゆらりゆらりと行進してゆく。
大蛇が吐き出す瘴気に当てられ、
次次と斃れ行く人人。
大蛇が通り過ぎた後の地獄絵図は、
筆舌尽くしがたいほどのとんでもない有り様なのだ。
大蛇の憤怒は、真っ赤な炎で天空を燃やし、
すると苦悶の表情の霊たちは炎燃え盛る天へと飛び立つ。
そこには一切救ひはなく、
霊は業火に焼き尽くされるのみ。
死しても尚、凄惨な地獄が待ってゐるのだ。
だからといって私は何をするでもなく、
既に他力本願にも似た境地にあり、
運を天に任せてゐる。
それでいいぢゃないか。
大蛇に丸呑みされやうが、
瘴気に当てられやうが、
業火に焼き尽くされやうが、
地獄が待ってゐるだけの此の世なのだから、
と、私の心は阿鼻叫喚の此の世の有り様とは反して
何とも晴れやかなのだ。
それは覚悟が決まった私の何時もの安寧な心の状態であり、
仮令、死しても私の人生悔ひなしと言へる自負はある。
だから、大丈夫だよ、ミーシャ。

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