長患ひの末に
お前は最期は眠るやうに静かに息を引き取った。
前日まで、お前は少し眠っては
しかし、寝るのが怖かったのだらう、
すぐに目を覚まし、
私を哀しげな鳴き声で呼んだ。
どす黒い死の影に自ら蔽はれてゐたことを
その膿で曇った目玉で
ぢっと凝視しながらも、
時間をかけてゆっくりと死を受容していったのだらうか。
最期の日は、水も受け付けず、
もう、体軀を起こす力もないお前は
それでも、お前の大好きだった鯖の水煮をペロリと喰った途端に
既に眼球は痙攣を起こしてゐるやうに
上下に揺れ動いてゐたが、
瞼をゆっくりと閉ぢて
それ以降、目覚めることはなかった。
それは大往生に相応しく
最期の潔さは
お前が死を受け容れる精一杯の寛容の姿勢だったのか。
死の直前、お前はゆったりと深い呼吸で眠りながら、
何を夢見てゐたのだらう。
お前の頭に手を当てながら、
私はお前のその死へ向かうときに見てゐたであらう夢に
思ひを馳せながら、
私もまた、お前が死の路へと出立してしまったと
確かに知りながらも
不知しらず不識しらずにお前との二十年間を走馬灯の如くに振り返りながら、
頬には涙が滴り落ちてゐた。
残されるものはみみっちいもので、
お前の覚悟の眠りには勝てないのだ。
お前の最期の安らかさには
既に後光が差してゐるやうに感じたが、
それは生に見切りを付けちまったお前の凄みだったのかもしれぬ。